032453 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

龍刀【朧火】製作所

四章 《下》 【天碧を舞いし飛燕】

4部【入隊への道】


夜が明けて朝靄が街を包み込む
まだ街の住民は起きていないようで静まり返っている

そこに一人の少年の声が響く

「号外だよ~号外!
謎の正義のヒーローがまた現れたぞー!!
今度は密猟団をギルドにたたき出したぞー!!」


「んあ?」

その声に将はまだ重たいまぶたを擦り起きる

「あ、ショウ起きたニャか?おはようニャ」

「ああ、おはようにゃん吉ニャ♪」

「朝からツッコム元気なんかないニャ」

「ああ、そう」
(残念だなぁ~)

にゃん吉は呆れた声でショウに言った

「それよりエルを起こしてくるニャ
今日の予定を教えてもらうニャ」

将は昨日のことを思い出す
昨日は酒場からの記憶がなく
今起きてようやく宿だと気付いたのだった

(それにしても妙に頭が痛い・・・何でだろ?
酒は飲んでないよなぁ一応未成年だし・・・・う~ん)

「分かった、とりあえず起こしてくるよ、部屋は?」

「この部屋の隣の306号室ニャ」

将はうなずくと部屋を出てエルスの部屋の前まで
やってくる

コンコン

「どちら様~?」

「あぁ将だけど~」

どうやらエルスは起きているようだ
朝には弱いと思ってた将はちょっと驚いた

「あ、空いてるから入っていいよ~」

中に入るとエルスはボウガンを床に置き
机の上に弾を並べていた

「おはよう、何やってんの?」

「おはよう~、あぁ弾の整理だよ
必要な時必要なだけ必要なものを取り出せるようにしとかないと
ガンナーは務まりませんからねぇ!」

そういいエルスは誇らしげに胸を張る

「へぇ、ところでさ、あの外で号外配ってたけど
あれ何?正義のヒーローがどうとかこうとか」


「あぁ、それもらって来たよ!ベットの上にあるから
読んでみたら?」

「ああ」

そういい将はベットの上の新聞を見る

(海山新聞?)

見出しにはこう書かれていた

[正義のヒーローランポtheファイター再び!!]

「ら、ランポtheファイターって?・・・」

「ええ~!?知らないの?今じゃ色んな街で有名な人だよ!
ある日突然現れて、この世の悪と呼ばれる存在をバッタバッタと
なぎ倒し、そして最後にそいつらをギルドに差し出して
お礼を言おうとする時にはもうその場に姿はないの!!
ねぇ~格好いいでしょ?」

あまりにも力説するエルスに「そうかぁ~?」とも言えず
苦笑しながら

「そ、そうだね」


新聞の内容を見る

前回爆弾密輸団を叩きのめしギルドに差し出した
謎のヒーローランポtheファイターが再び現れた
今回はアプトノス牧場で飼育しているアプトノスを
密猟しようとしていた密猟団をランポtheファイターが
見事撃退!ギルドに差出し正体を聞こうとした時には
もうその場にいなかった・・・


(ヒーローねぇ・・・)

そこで将はにゃん吉に言われていた事を思い出した

「あ、そうそうエル!今日入隊できるかどうかのテスト
あっただろ?あれどうなった?」

「あぁ今日お昼食べたら出発ね、お昼は
酒場でもいいんだけどこの宿で作ってくれるっていうから
将の部屋でみんなで食べよう」

「みんなってアレンさん達も?」

「あの部屋で全員入ると思う?」

「あ、そうか・・・」

「アレン達は酒場で食べるって言ってたから
お昼食べ終わったら酒場で集合、クエストは
[ランポス討伐作戦]ってクエストでメンバーは私と
アレンとクーガとショウね」

「わかった、でもランポスだけならそんなに
みんなでゾロゾロ行かなくていいんじゃないか?」

「ランポスだけならねぇ、でもその近隣に
リオレウスの巣があるって言われてるの
だから私とクーガはそのリオレウスの注意をこっちに
ひきつけて、アレンはショウについて実力を見てくれるから」


「お、おいリオレウスってお前大丈夫なのか?
あんなの二人だけで倒すなんて無謀だぜ?」

「もちろん二人で倒せるような甘い相手じゃないよ
ただ注意をひきつけるだけ、無茶はしないよ」

「あ、ああなら良いんだ」

「何?心配してくれてんの?」

「あぁスゲー心配だよ・・・」

「え!?」

「お前と一緒でクーガさん大丈夫かなって・・・」


数秒後ショウの腹部にエルスの強い蹴りが入ったのは
言うまでもない

将は昼飯の時も不機嫌なエルスに
何度も謝ったが機嫌は直らない

酒場でアレン達と合流し
将はクエストの依頼地へ馬車で向かう


将のハンターとしての初クエストが始まった




~馬車の中にて~

未だにブスっとしているエルに疑問を抱いたのか
アレンが心配そうに尋ねる

「どうしたんだい、エル?」

「なんでもない!!」

クーガはその様子を見て大袈裟に笑った

「だっはっは!エル嬢が機嫌悪いのはいつものことだからなぁ!」

しかしその笑いもエルの妙にトーンの低く
発せられた言葉に恐怖へと変わってしまう

「いつも・・・何だって?・・・・」

「あ、はっはは何でもないぞ!エル嬢は
いつ見ても可愛いのうといったんだ!はははは」

明らかに顔が引きつってる

(嗚呼ぁあのクーガさんが黙るくらい怖いのか・・・
いやこの怖いじゃなくてこの恐いだろう・・・・・・)


その後依頼地へ着くまで誰も一言も
しゃべらなかった・・・







~依頼地エリア森・丘にて~


将が依頼地に着いての第一声はこれだった

「あぁ長時間馬車乗ってたせいでケツいてぇ~」

酷いものだった、馬車の場合小さなくぼみでも
すぐつっかかって振動する
それも馬車の車輪にゴム製のチューブは付いていなく
木製の車輪がむき出しになってるためだった

しかし他の3人は割りと平気な顔をしていて
一人うめいている将を見て苦笑している


一通りベースキャンプの設置も終わり
アレンが支給品と地図を広げて皆に指示をする

「みんな支給品は全部で地図4枚、携帯砥石4個に
応急薬12瓶、携帯食料8個、ペイントボール2個と
各種弾丸、カラの実10個だ」

そういうと地図を一人1枚ずつ渡し
携帯砥石のうち2つをクーガに残りを将に渡した


「携帯食料は各自2個ずつ今食べておいてくれ
応急薬は各自3個ずつ、将は何があるか分からないから
僕の分も持ってるといい、ペイントボールはクーガに任せる
標的を見つけたらすかさず投げてくれ
各種弾丸はもちろんエルが持っていてくれ」


将はおどろいていた
みんながアレンが指示したら即座に対応し
自分の準備を進めていく、この対応の早さはアレンを信じている
からこそなせる技なんだなと将は思った


「よし、各自準備はできたな?
最後に確認する、このクエストはあくまでショウの力量を
見定めることとランポスの討伐が目的だと言うことを忘れるな
二人はリオレウスをひきつけるだけでいい、無茶はするなよ?」

エルスとクーガはうなずく
彼等の目はもうすでに狩人の目をしていた
普段の陽気な雰囲気など微塵もなく命のやり取りをする
戦士であった


「みんな今日も無事に生還して杯を交わそう!」

「ああ」

「うん」

「え、えと~おう!」


そしてエルスとクーガ、アレンと将の二手に別れた


          

           ◆      ◇




「ショウ、気を抜くなよもうすぐランポスの生息区域だ
僕は手はださない、君だけでやるんだ」

「わ、分かった!」

「よし!じゃあ暴れてこい!」

「ああ!」


将とアレンはランポスの生息区域に飛び込んだ
アレンは気配を消して草陰に隠れた

将は肉眼でランポスを確認した
将の足音に一番近くにいるランポスが気付き
声を上げて仲間に敵という名の来訪者の存在を伝えようとする

(させるか!)

将はすかさずオデッセイを抜き
ランポスの喉を切り裂く、血と共に水が弾け飛んだ

(これが水剣・・・水の力を宿した剣か・・・)

そして一匹目を片付けてすかさず
草陰に飛び込む

将は静かに移動しランポスの数と位置を確認する

(数は・・・5・・・岩陰に2匹いるな・・・あと向こうに1匹
はぁ~いきなり8匹もかぁ~、さ~てどうするかな・・・
喉を狙えばランポスは一撃で倒せるけどさっきのは不意打ち
だったからうまくいったんだ、次もできる保障はないか
このまま突っ込んでもおそらくやられるな・・・
だって防具がアロハシャツにジーンズだもんなぁ・・・はぁ)


将は一人うなだれた
きっと誰かが防具を貸してくれると思っていたのに
誰も貸してはくれなかった・・・
このぺらっぺらな服装みて防御力なんて無いってなんで
気付いてくれないんだぁ!と拳を握る
それどころかみんなこの服を見て
どこか関心しているようだった



その時アレンはこんな事を思っていた

(ランポスが仲間を呼ぶ前に倒したのはよかった
判断とスピード共に早いし速い・・・なかなかやるな
しかし、一番気になるのはあの防具だ
派手な上にぺらぺらで防御力はなさそうに見えるけど
いや、今までにあんな物は見たことがない
もしかしたらものすごい防御力があるのかもしれないな・・・
うん、きっとそうだ!やはりなかなかやるな、ショウ!)

将はすがるようにアレンを見るが
アレンは手を前に出してGJ!のポーズをしている

(はぁ~ダメだこりゃ・・・)




将は考えていた
持っているアイテムは砥石2つに応急薬6瓶だけ
これだけで打開策が生まれるとは思えない
ふと足元を見ると野球ボールくらいの石ころが落ちていた

(こうなったら!)

将はランポスの動きをジッと見つめていた
そして一匹一匹の距離がある程度はなれた瞬間

(今だ!)


近くにいる一匹のランポスに向かって
あの石ころを思い切り投げつける、すると
ランポスは将の存在に気付き仲間に伝えるべく鳴き声を上げた
他のランポスも気付き将に向かって走り出す

将も走り出しオデッセイを再び抜く
将は一番近くにいるランポスの喉に向かって突きを繰り出す
仲間に敵の出現を知らせている途中のランポスに
回避するすべは無く突き刺され絶命した

(一匹目!)

すると他のランポスが飛び掛ってくる
しかしそれは一匹だけだった
それは将の立てた作戦の成功を意味していた

戦闘になった時2匹以上をまとめて
相手にするのはきびしかったので
一匹一匹の距離が離れている時に姿を見せることによって
一匹一匹が将の所へ到達する時間のズレが生じ
わずかな時間ではあるが1対1の状況を作ったのだった

(もたもたしちゃぁいられない!
少しでも一匹に手間取っていたらすぐに1対2
1対3と不利な状況になる!)

将はランポスの胴体を素早く三連続で
切り裂き絶命させる

「2匹目ぇーー!!」



        
           ◆     ◇




リオレウスの巣のすぐ近くにある崖では
激しい爆音と咆哮が轟いていた

「オオオオオオ!!」

クーガが気合の声と共に破鎚シャッターというハンマーを
最大限の力でリオレウスに叩きつけるべく力をためる

ガシャン!
ズドン!ズドン!ズドン!

エルスが麻痺弾を撃ちクーガを援護する

二人は当初の作戦通りリオレウスをひきつけていた
途中飛んで逃げようとするがエルスの貫通弾が
翼を貫き地面へと叩き落としていた

エルスが弾を装填しさらに麻痺弾を
3発撃ち込んだ

その瞬間リオレウスは麻痺弾の効果で
体が痺れ動けなくなる

この瞬間を待っていたと言わんばかりに
クーガが一気に間合いを詰め、力を最大限にためた
一撃をリオレウスの頭部に叩き込む


「グギャァァ!!」


リオレウスはうめきそしてその目に怒りを宿した

「エルス!気をつけろ、コイツがキレると攻撃力、速さが
急激に上がるぞ!」

「わかった!反動の少ない弾で援護するから頑張って」


リオレウスは一度叫び一直線にクーガに突っ込む


クーガは回避しさらなる一撃を加えるべく
鎚を振り上げたが、次の瞬間リオレウスは体を回転させ尻尾を
振った、クーガは避けきれず強い衝撃がクーガの横っ腹に
襲い掛かる

「ぐぁ・・・」

クーガは10m程吹っ飛ばされるがすぐに体勢を立て直す

(ディアブロメイルじゃなかったらアレで死んでたな・・・)

「だ、大丈夫ですかクーガさん!」

「あ、ああ!骨が2、3本いったかもしれない・・・
だが大丈夫だ、まだ十分に戦える」


エルスは支給品で渡された回復弾を装填し
クーガの横っ腹に向かって打ち込む
すると徐々に腫れがおさまっていく

「すまない、助かった」

「気にしないで!さぁ将がランポスを倒すまで頑張りましょう!」




           ◆     ◇



将はさっきの8匹のランポスを無事無傷で狩り
地形などを巧みに利用し次々とランポスを狩って行った

「はぁ・・・はぁ・・・残り4匹か・・・」

将は支給された地図を見る、そこにはアレンが書き足してくれた
ランポスの生息区域が書かれていた

(まだ行ってないランポスの生息区域はここだけか・・・)



アレンは将の狩りに驚愕した

(ここまで戦えてついこの間ハンターになったなんて
考えられないな・・・巧みな作戦、行動力
そして素早い判断力、全くもって驚かされるよ・・・)

ふと気付くと先ほどまであった将の姿がそこから
消えていた

「なっ!いない!?」

(何てことだ・・・クソ!まずい・・・
あそこは僕の援護がなくちゃ危険だ!あそこは・・・
ショウがまだ行っていないランポスの生息区域は・・・・)







          飛竜の巣じゃないか・・・・

5部【狩るか狩られるか】



「グギャー!」


リオレウスはあまりの激痛に声を上げる
エルスが撃った貫通弾がリオレウスの翼爪を砕いたのだった


「よし!」

「エルス!このままいけばもしかしたら
もしかするかもしれんぞ!」

「あと少しで倒せるかもね!」

「ああ!」

リオレウスは何度も飛び去ろうとしたが
エルスの貫通弾がそれをゆるさず
何度となくレウスは地面に叩きつけられクーガの追い討ちをくらい
もうすでにボロボロになっていた



クーガが更なる追い討ちをかけようとレウスとの
間合いを詰めようと走り出すが
リオレウスが今までに上げたことのないすさまじいく大きい
咆哮をした


「ぐぅ!」

「きゃ!」

二人は慌てて耳をふさぐが
あまりの大音量に脳を揺さぶられる

そして二人が硬直しているスキにレウスは空へと舞い上がる


「ぐぅ!しまった!」

「まずい!」


エルスがすかさず貫通弾を装填し
レウスを叩き落とそうとするが、まだ目まいがして
狙いがさだまらない

「くぅ!」

ズドン!ズドン!ズドン!

連射するが少しかすめるだけでレウスを落とすことができず
視界からその姿は消えていった


「ごめんなさい、クーガさん!」

エルスは自分の失態でレウスを逃がしてしまった
事を悔いてクーガに謝った

「良いってことよ!あれはしかたがなかった
それよりあれだけ弱ってりゃあすぐそこの巣に寝にいくはずだ」

そう、飛竜という生物は寝ることによって
自己治癒をより早く行なうことができる
しかし寝ている間は無防備なため急所を狙いやすいのだった


「はい、いそいで行きましょう!」


二人は崖を上り始める




         ◆        ◇



その時将は飛竜の巣にいることすら気付かず
目の前のランポスをどう倒すか考えていた

(ここは割りとランポス達は散り散りになってるから
そのまま突っ込んでも大丈夫だろう・・・・よし!)


そして将はランポスの前へ飛び出し
不意打ちをしかけ喉を切り裂く

(よし!あと3匹)


「おーりゃ!」

ランポス達は将の存在に気付き
威嚇の声を上げる

しかし将は一匹を狩った勢いを殺さず
2匹目の相手をしていた

(もう気づかれてるんだ!狙うのは胴体だ)

すかさずランポスの胴を切り裂く・・・・はずだったが
ランポスがバックステップで回避する

(しまった!)

「ちぃ!」

その間に他の2匹のランポスも敵の援護につき
今まで使ってきた1対1の状況が壊れた

ランポス達は将を取り囲むように間合いをとり
いつでも飛びかかれるたいせいになる

すると次の瞬間背後のランポスが
飛び掛ってくる

「くそ!はぁぁーーー!!」

将はすかさず背後を向き
ランポスの心臓めがけて懇親の突きをくりだす

しかし時間差でもう一匹が飛び掛ってくる
剣を振りぬこうとするが心臓を刺されたはずのランポスが
まだ生きていて剣に放すまいとかじりついている

(くそ、微妙に心臓から外れていたのか!)

将は盾でガードしようとするが間に合わず
将の無防備な背中にランポスの爪が突き刺さる

「ぐ・・がぁ!」

さらにもう一匹のランポスが足に噛み付き
完全に身動きができない

「く・・・そ・・・野郎がぁ!」

将は剣に噛り付いているランポスのさらに奥に
剣を突き刺す、するとそのランポスはついに絶命し動けなくなる


「はぁ!」

さらに足に噛み付いているランポスの首めがけて
オデッセイを振り下ろす

最後に背後のランポスに回し蹴りをくらわして
距離を置いて胴体を連続で斬る


「はぁ・・・はぁ・・・終わった・・・」

将はバッグの中から応急薬を取り出して
傷口に半分かけてもう半分を飲む

「ふぅ、すごいな・・・もう痛みがない
向こうの世界でもこんな便利なもの薬局かなんかで
売ってねぇかな~」


将は無事、でもないが討伐依頼を成功させた事で
心地よい達成感に包まれていて自然と独り言がでる

ふと隣を見るとそこには
先ほどまで命のやり取りをしていた者が
鮮血を流しながら横たわっていた

そして自分のしたことを深く噛み締めた


(そう、俺は命をこの手で奪ったんだよな・・・)

将は最期の最後まで自分の武器に必死に噛り付いていた
ランポスのことを思い出す

(あいつ、自分は助からないって分かってたのに
仲間を守ろうとして・・・・)


あの状態では心臓を外れていたものの
助からないということは分かっただろう
しかしあのランポスは自分の命を振り絞り仲間を助けようとした

将は罪悪感につつまれる



剣を地面に突き刺し将は両手を合わせて
生死を賭けて戦ったランポス達に祈りをささげる

(償いはできないけれどせめて祈ることなら・・・
ランポス達の魂が正しく天へ導かれますよう・・・・)



と、その時


グギャー!!

外から咆哮が聞こえた

「な、なんだ?」

その直後銃声が3発聞こえた

「もしかして、エル達が戦ってるのか?

将はエル達がおとりをやってくれている事を思い出す


しかし銃声は止み翼の音が段々とこっちに近づいてるのが
分かった途端、将は震えた

「ま、まさかリオレウス!?な、なんでこっちに!?」


すると一つの咆哮が聞こえ地を揺るがした
そして天から舞い降りてくる一つの影があった

その影は段々と薄れて実態と化していく
そして将の前にそれは舞い降りた


天空の王者 雄火竜 リオレウス

「こ、これが本物のリオレウス・・・」

リオレウスはボロボロだったが赤眼が放つ殺気は
凄まじく将はその場で硬直してしまう

リオレウスは首を持ち上げその口からは
炎のようなものがチラついている
おそらくブレスだろう

将はゲームではリオレウスと戦ったことがあったため
今ブレスを吐こうとしていることは容易に分かった

しかしあまりの殺気に足が硬直して動けない

そしてリオレウスの火球は今、将に向かって

放たれた


(死ぬ・・・)

「うわぁーー!」



爆音が洞窟内に轟いた


が、しかしその爆音は将にあたったためでなく
目の前の人物が大剣でその火球を防いだのだった


「あ・・・ア・・レ・・・ン・・・?」

「ふぅ~何とか間に合ったね、大丈夫かい?」

将はほぼ放心状態だった
あまりに突然の出来事で状況を理解するのに
なかなか思考が働いてくれない

「あ、ああ何とか・・・」

「とりあえずランポスは狩ったんだ
急いでこの場を立ち去ろう、ほかの二人は崖の方に
いるはずだから向こうの出口に走るんだ」

「ああ!」

将は正気を取り戻し走り出すが
リオレウスが回り込みその道を封じる

「ち、コイツ通すどころか僕達を生かす気さえ
持ち合わせていないようだ・・・」

「みたいだな・・・」

「ショウ!君は離れていてくれ、こいつは僕が狩る!」

「だ、大丈夫か?こんな奴一人で・・・」

「一人じゃないさ」

するとリオレウスの背後から声がした

「アレン!?ショウ!あんた達なんでここに?」

「ほー、もうやり合ってたか!俺も参戦するぞ」

リオレウスを追ってきたクーガとエルだった
二人はアレンと目で合図し合うと静かにうなずいた


「よし、クーガ!エル!行くぞ!」


それから先は将が驚愕するほど鮮やかな戦いかただった

エルスが突っ込んでくるリオレウスの勢いを
徹甲瑠弾で殺し

クーガが回転しながらハンマーを振って
リオレウスを押し倒し

アレンが最後にリオレウスの頭めがけて
混心の一撃を振り下ろす


普通ならもう死んでてもいいはずなのに
リオレウスは再び立ち上がったのだ

(あいつ・・・なんであそこまでして・・・
逃げればいいじゃないか!なのに何で!?)


リオレウスは幾度となく倒されるが
同じように幾度となく立ち上がった

しかしとうとう力なくうなだれて
絶命した・・・・


将はアレン達に近づき
疑問に思っていたことを聞いてみた

「コイツ、なんで逃げなかっただろ?
こんなになってまで・・・何でなんだ・・・アレン・・・」

逃げる事だってできただろう
しかしリオレウスは逃げるどころか何度も立ち向かったのだった


聞かれたアレンは寂しそうに笑って
そして、ついておいでと言った

少し段差になっているところを登るとそこには
ワラのような物の中にギャーギャーと高い声で鳴いている
リオレウスの子供がいた


「まさか・・・あのリオレウス・・・」

(こいつ等を守るために・・・)

アレンはボソっとどこか遠い目をして
そして自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた

「飛竜も・・・人も・・・同じなんだ・・・
子が愛しく、仲間が愛しく・・・そのためには自分の
命を賭けて守り抜こうとする・・・」


次の瞬間アレンのしようとしている行動に
将は驚愕して思わず止めようとする

「あ、アレン!お前・・・何を!?」

アレンは大剣を振り上げ
今まさにリオレウスの子供に斬りかかろうとしていた

「何って・・・コイツを狩るんだ・・・」

アレンの口から出たあまりにも冷徹な言葉に
将は耳を疑った


「なんで!?お前今言ったじゃないか!
人と飛竜は同じだって、何もこんな子供まで!」

「確かに言った」

「だったら何故!?」

アレンの表情が一変し
将を真剣な眼差しで睨みつけてくる

将はその気に圧倒され一歩あとづさる

「こいつが成長して、今日のアイツの様に大きくなれば
またここら一帯は危険地帯になるだろう!
更には人も襲われ死人がでるかもしれない!」

将は何も言えなかった、確かにそれは事実で
死人がでてからじゃ遅いのだ



「ハンターって言うのは狩るか狩られるかの世界だ!」


アレンは続けて言う


「今ここで狩らなければ次狩られるのはお前かもしれない!」


「くっ!」


そうだ、ここで狩らなくては次狩られるのは自分
かもしれない・・・そうでなくても仲間が狩られるかもしれない
そして当麻も・・・・・


アレンがまた剣を振り上げる

将は悶絶していた、この行為を見ていることは出来る
目を逸らすことはできる、逃がそうと思えばそれもできるだろう
しかし将に響くのはアレンの一言だけ
次狩られるのは己自身・・・仲間や友達・・・
その言葉が将を突き動かした


「待ってくれ!!」

「なんだ?・・・・」

「俺がやる・・・・」


後ろにいるエルスとクーガが驚いた顔をして
こっちを見ている

「ああ、ハンターになるなら誰もが超える壁だ・・・」

そう言いアレンは大剣をしまい一歩退いた






狩るか狩られるか・・・・・








今ここで狩らなくては次狩られるのは己自信・・・・









~今日一人の少年の叫びと共にまた新たな魂が天へと昇った~


----------------------------------------------------------------------

6部  《前編》【闇を動めく者達】


ある夜のこと
深夜となり皆が寝静まった頃、一般的に豪邸と呼ばれる建物に
一つの影があった

その影の人物の名前は浜崎 当麻  職業:高校生


「くそ!何で俺がこんな事!あぁ~~何でこうなる
どこをどう間違えてこっちの人間になっちまったんだ・・・」


すると当麻を一筋の明かりが照らした

「な、何者だ!?」

おそらく警備員か何かだろう

「やっば!見つかった・・・」

さすがに豪邸と言うだけあって世界各地の名品や
遺跡から発掘された土器や土偶等がただなアンティークとして
飾られているために防犯対策のために警備員を
各フロアに配置しているのだった


(くそ!一旦退くか?・・・いやどこかに隠れて様子を見よう)

すると警備員が[通信管]と呼ばれる
各フロアへと管が伸びていて、そこから
他のフロアにいる仲間へ連絡をとることができるものを使って
緊急事態を通達する

「各員に通達!エリア203に侵入者発見!
直ちに排除されたし!」


当麻は物陰に隠れつつ、見つからないような場所を探す

(あぁ~くそ!、何で俺がこんな目に!!元はといえば
あいつ等の!あのバカ二人の!クロノとキラのせいだ!)



 __________________________


それはあの真実を知った夜



「とりあえず今のお前にできることは
強くなることだけだ」

「強くなる?」

「そう、この世界で弱者が生き残れると思うな
弱肉強食、優勝劣敗の世界だ!帰る方法を探すにしても
強くなることは絶対条件だな」

「じゃあ具体的に何をすればいい?」


「それはだな・・・・・」


クロノがそう言おうとした時部屋の外の廊下から足音がした
二人は一瞬警戒するが、ドアの外から聞こえた
間の抜けた声に警戒をとく

「うお~いクロノぉ~~今帰ったどぉ~」

そう、キラだ

明らかに疲れきった様子で部屋に入ってきて
ベットに突っぱねた

「おう、お帰り~ハロはどうしてた?」

「んあ?ハロは相変わらずだよ、あっちへ行ったり
こっちへ行ったりの根無し草・・・」

「そうか、でも何でそんなクタクタなんだ?」

「はぁ俺というこんな良い男がいるのに
ハンサムでゴージャスでビューティフルでエキサイティングで
エレガントで(以下略)な良い男紹介しろって
今まで延々と付き合わされてたんだよ・・・・」

「な、何だと!?俺みたいなイケメンがいるっていうのに
俺みたいなハンサムでゴージャ(以下略)な男が
いるというのに!バチあたりなやつだ・・・・・」

何か仲間の女性の話をしているようだったが
そんなこと自分には関係なかったので話を戻す


「お~い!クロノ、で?俺は具体的に何すればいい?」

「お!無理やり話し戻したな?」

キラが興味有り気な顔こっちの話題に乗ってくる

「お?何の話だ?」

当麻はキラに今までの経歴を話した
どうやらキラはクロノがこっちの世界の人間ではないことを
もう既に知っているらしく、俺がこの世界の人間ではないことも
知っているようだ

キラはクロノにたずねた

「んで?当麻を強くさせるんだろ
具体的にはどうさせるつもりなんだ」

するとクロノは意味深な笑みを浮かべて
キラに言った

「やっぱアレしかないだろ?」

「だよな!」

アレとは何のことかさっぱり分からず首を傾げる

「アレ?」

するとキラとクロノはわざとらしく
ゴッホンとせきをして言った


「それはだな・・・・」
「それはな・・・・・」

二人が声を合わせて言った

       「「泥棒になれ!!」」

「はぁ~?」



____________________________




「はぁ、はぁ、ようやく撒いたか・・・・」


当麻は展示品の一つのでっかい壺の中にいた
この壺の名前が[人食い壺]とかいうなんか物騒な名前だったが
この際そんなこと気にしてはいられない


「くそー!武器がこれじゃなければあんな奴等!」

当麻の腰には剥ぎ取り用のナイフが一本
他に武器はもっていなかった

これはやはりクロノ達が原因である



____________________________


「泥棒ってなんだよ!?イキナリ何を言い出すかと思えば
泥棒だぞ、犯罪だぜ?第一俺の武器をしばらく取り上げるって
一体どういうことだよ!」



するとクロノとキラは笑って話を続ける


「まぁ理由は聞くより実際にやった方が早いな
だからお前に盗んできて欲しい物がある」

「な!理由も聞かずにそんな事できるか!」

「強くなりたいんだろ?」

当麻は何も言えなかった

「お前の初仕事はカトリーヌ家にある[天海の雫]と呼ばれる
ペンダントを盗んでくること」

するとキラが驚いた顔つきでクロノに言った

「おいおい、いきなりカトリーヌはキツくないか?」

「だいじょーぶ!もし捕まったら助けに行ってやればいい」


当麻は自分の話題なのに妙に置いてかれてる気がして
一体なんなんだよ、と聞いてみる

するとキラが説明し始める

「この世界は住民全員に階級がつけられる
下の位から順に言うとこうなる。
[貧民]→[平民]→[下級貴族]→[中級貴族]→
[上級貴族]→[王族]の6階級に別れている。
基本的に貧民から平民、平民から下級貴族と
階級が上がる人もいるが、貧民から下級貴族、つまり
貴族になる人はそう滅多にいないな」

「で?それがどうしたんだ?」

「これからお前が行く予定のカトリーヌ家は
貧民から中級貴族にまでのし上がった連中だ
普通の中級貴族ならお前でもいけると思うんだがな・・・」

「普通の中級貴族とどう違うんだ?」

「ああ、それはだな
普通の中級貴族っていうのはな、親が元々貴族で
例えその子供が貴族としての責任を果たさないようなやつでも
その地位は守られるんだ。
でもカトリーヌのような貧民からの出は
場数を踏んでいて、業務もしっかりと果たすから知名度も高けりゃ
防犯対策にも抜かりがないんだ」


当麻にはよく理解できなくて簡単に
カトリーヌは貧民からのし上がった人だから
世の中をよく知っていて手強いということだろうと結論した


「なるほどねぇ、俺で大丈夫なのか?」

するとクロノが自信たっぷり頷く

「ああ、平気平気!失敗してもキラが何とかしてくれるから」

「俺かよ!!」

「分かった」

「納得すんなや!」

そして当麻は最後の疑問をぶつける

「で?何で武器を俺から取り上げるんだ?
お前等は知らないだろうがアレは大事な人からもらった
大事な物なんだ、アレだけは渡せない・・・」

そう、ダイグから貰った大切な・・・・

「何もお前から奪って自分達の物にしようとは思ってないさ」

「え?」

「ハンターがなぜハンターナイフから始めるか知ってるか?」

「え、え~と安いから?」

「確かにそれもある、
ハンターがハンターナイフから始めるのは暗黙のルールと
なりつつあるが、それにはちゃんと理由がある」

「理由?」

「そう、ハンターになる上で間合いの取り方を学ぶためだ」

当麻は黙ってその話の続きを聞く

「ハンターにとって間合いほど大切なものはない
不用意に相手に近づけば牙や爪で切り裂かれ
かといって離れすぎていても火球とかの遠距離攻撃の
餌食になる」

「だからなんなんだ?」

「つまりお前はまだ間合いの技術が備わっていない
それは対人戦でもそうだ、お前はへリングに間合いを詰められ
攻撃するすべを断たれたな?」

「あ、ああ・・・」

「へリングも今はギルドナイトだが昔はハンターだった
あいつの間合いの取り方もハンターの独特なものだ
お前はその間合いを身に付ける前に武器を
リーチがあって軽い武器にしたせいで接近戦が
てんでダメだ、だからしばらく預からせてもらう」


当麻は不本意だったがクロノのいう事は
的を射ている、壁に掛かっている当麻の剣をクロノに預ける


「よし、カトリーヌ家に忍び込むのは今日の夜だ
それまでキラ、お前は当麻に接近戦の指導をしてやってくれ」

「ああ、まかせとけ!トウマ、俺のことはちゃんと
[キラ先生]って呼ぶんだぞ?」

「なんか変な期待してるようだが俺みたいな男が言っても
気持ちが悪いだけだろ?[先生]だなんてやっぱ
女性に言われたほうがこうビビビっとこないか?」

「おお!なるほど!
トウマ・・・お前は分かってるやつだなぁ~♪」

「あぁ!お前もな♪」


ここに変な男の友情が芽生えた





_____________________________



「ふぅ、キラに接近戦のやり方は教わったけど
所詮付け焼刃だしな~」


だんだん辺りが静まってきた
おそらくもう逃げたと判断したんだろう

「そろそろいきますか・・・」


壺からでた次の瞬間


「・・・・・」

「・・・・・」

警備員とばっちり目が合った

「え、えっとぉ~こんばんわ?」

「あぁこんばんわ、夜分遅くにどーも泥棒さん♪」

「あ、いえいえソチラもお勤めご苦労様です・・・」

「俺の仕事内容わかります?」

「えっと怪しい人を見かけたら捕まえる?」

「その通り♪」

「じゃ、じゃあ怪しい人見かけたら教えますね♪」

「ええ、是非ともそうしてください・・・」

なかなか冗談の通じる警備員だが今はそうも言っていられない
状態だ、もう相手は既に武器を構えている


「はぁ、しゃあないか」

そういい当麻も剥ぎ取り用のナイフを構える

「ところで警備員さん?仲間呼ばないの?」

「いやぁ~一人で捕まえた方が取り分多いしね♪」

「はっはっは、俺に似てガメツイ性格だ・・・な!」


そういうと当麻は一気に間合いを詰める

そしてキラの教えてくれたことを思い出しながら戦う

『いいか当麻!相手も接近用の武器なら大抵初撃は
縦斬りだ、だからすかさず間合いを詰めて
相手の手が動いたと思ったらサイドステップで横に飛べ
そうすれば絶対回避できる!こんのキラ様が言うんだからな
間違いないぞ!』


当麻は横に飛び相手の攻撃を軽々避け
相手の剣は空を斬る

『避けた気をつけることは一つ、そのまま仕留めようとするな
相手はすかさず切り上げで攻撃してくるからバックステップで
一旦少し後ろに退いて間合いを開きすかさず詰めるんだ』



当麻は一旦後ろに退いてすかさず間合いを詰めた

(いける!!)

「はぁー!!」

当麻はナイフの柄の部分で相手の首を思いっきり強打する
すると警備員は気絶して倒れる


「ふぅ、勝てた・・・」

当麻は勝利の喜びを噛み締めながらも
先へと急ぐのだった。




「はぁ、はぁ・・・ココか・・・」


当麻は一つの扉の前にいた
その扉には来客室と書かれたプレートが掛かっていた


当麻は慎重に中へ足を踏み込んだ


中は割りと広く、目当てのアレの他にも
当麻にはよくわからないが貴重な土器、土偶、絵、アクセサリーなどの類の物が展示されていた
おそらくは来客への自分の権力、財力を見せ付けるため
ここへ展示しているのだろう


だが今はそんなことはどーでもいい当麻はアレの展示されている
ガラスケースの前で立ち止まる



(これが・・・天海の雫・・・)


当麻は思わず見とれていた、いや、魅せられていた
その外観は銀で出来た翼がフレームとなって
その中央部分に宝石がはめられている


その宝石は当麻をしばらく
釘付けにさせた


当麻に宝石の価値などは分かりはしないが
ただ単にすごい・・・そして悲しい宝石だと思った


(何でこの宝石は輝いていないのだろう)


当麻はそう思った
しかしそれは外観的なものではない
外観で言えばこれ以上ないほどに輝いている


けれど・・・


この宝石はまるで太陽の光を失くした月のように
真実の輝きを放ってはいない


しばらくして当麻は自分の仕事内容を忘れていたことに
気付きあわてて作業を開始した


ガラスケースの中から天海の雫を取り出して
しっかりと布に包んだ


(よし、後は逃げるだけ・・・)


その時天井の排気口から声が聞こえた


「お~い当麻君!こっちこっち」


ドラグーンだった


「何であなたがここに?」

「迎えにきたんだ、警備員は君がもう外に出てると
思い込んでるからもう一度進入されないように
外の警備を厳重にしてるんだ」

「普通に出たら捕まると?」


ドラグーンは静かに頷いた


そして当麻はドラグーンと共に
排気口を通って豪邸を抜け出した


当麻の初仕事は無事成功した

布の中身をチェックして天海の雫の無事を確認した
外はもう明け方で朝やけの光に照らされ
静かに光っていた、心なしか先ほどより輝いてるように
当麻は思った

_____________________________

《後編》【少し遅れたプレゼント】


~数時間後~




当麻たちは無事に街へ着いた
街へ着いたのはもうすぐ夕方のなる時刻
かなりの疲労を感じていた当麻だったが
街の人たちが皆幸せそうに微笑みながら生活しているのを見て
心地よかった



「おかえり当麻、初仕事ごくろーさん!」


クロノも微笑みで迎えてくれたが
当麻はその笑顔が妙に腹立たしい

訳も説明せず泥棒までやらせ
終いにはお礼もなくごくろーさんだ腹立たない方が可笑しいだろう



「そろそろ俺に泥棒やらせた訳を教えてくれよ」

「あぁそうだったな、ドラグーン、あの人の家どこだっけ?」


クロノが聞くとドラグーンはメモを取り出す


「え~っと、3丁目の武器屋[てやんでい]の隣ですね」

「おっけ~サンクス!んじゃあ当麻、ちょっとついてきてくれ」



そういうとクロノは当麻の返答も聞かずに
目的の場所へと向かう


3丁目の武器屋[てやんでい]はすぐ近くにあった
その隣には一軒のボロ家


「ここだな・・・当麻、天海の雫を」

「あ、ああ」


クロノは受け取るとボロ家の扉をノックする


「どちら様でしょうか?」

中からはかすれた声が帰ってきた


「クロノだ」


するとドアが勢いよく開け放たれた


「ど、どうしてあなたがココに!?」


家の中から若い20代後半ぐらいの女性がでてきた
明らかに動揺している

するとその女性の背後から声がした


「あぁー!クロノ君!!」


そこには8、9歳くらいの少女が立っていた


「どーしたの?もしかして遊びにきてくれたの!?」

するとクロノは優しい笑みを浮かべて

「ああ、そうだよ」と言った


少女は喜びクロノに飛びついてくる


「本当!?わぁ今日私の9才のたんじょーびなんだ~」

「ああ、知ってるとも!今日はある人に頼まれて
誕生日プレゼントを持ってきたんだよ」


そういうとクロノは当麻が盗んできた天海の雫を
少女の手のひらにのせた」


「お誕生日おめでとう♪」


動揺していた女性は少女の手のひらにある
プレゼントを見て泣き崩れ
クロノに何度も何度も
ありがとうございます、ありがとうございますと言っていた


「ねぇねぇクロノ君!このプレゼントって
誰からのなの~?」


するとクロノは再び微笑んで

「君のお父さんからだよ」と静かにいった

「え!?パパから!!私のおたんじょーび
ちゃんと覚えててくれたんだぁ!うれしいなぁ」


若い女性の方はまだクロノにありがとうございますと
言い続けている


「お礼ならこの当麻に言ってあげてください
取り返してきたのはコイツですから」


するとその女性は当麻にもありがとうございますと
泣きながら何度も言う


状況がいまいちつかめない当麻は
どーして自分がお礼を言われてるのか分からないまま
あたふたしていた


しばらくしてその家を後にした
基地へ戻る途中クロノはすべてを話してくれた



______________________________



何でもあそこの家は昔はブレイブ地方という都会に
住んでいたという
都会故に税金も高かったそうだ



先ほどの女性はあの少女の母だという


都会では裕福ではなかったけれど
少女とその父と母で幸せな生活を送っていた


少女の父は間近にせまった娘の誕生日に
ある宝石をプレゼントしようとしていた


彼は炭鉱の仕事をして
その時採掘された宝石だった

しかしその時に宝石かどうかは分かるはずもない
それは今までに採掘されたことのない新種の宝石で
しかも磨かなければただの石ころ同然の形をしていた

しかし彼はその宝石に呼ばれるかの様に手に取り
気付けば磨いていたそうだ
そこから現れた宝石の輝きに彼は魅せられた

そして決めたのだ
コレを我が愛する娘にプレゼントしようと


宝石に銀の翼の装飾を加え
それはまさにこれ以上ないほどの輝きを放っていた


それを妻に見せプレゼントにどうだ?と言うと
彼女は大賛成と笑ってくれた


愛する子の誕生日まであと一週間となった



しかしある日ブレイブ地方に大きな変化が訪れた
税などの経済を統括するギルドが税金を大幅に値上げしたのだ


このブレイブ地方では都会であるが故に
貴族や富豪などが多くくらしていた
そのためギルドはこの値上げを計ったのだ


もちろんただでさえ高い税金を払ってギリギリの
生活をしていた少女とその父と母

到底その税金は払える額じゃなかった
そして日に日に借金が増え
ギルドから取り立てがくるようになった


そしてついには家にまで乗り込んできた
赤い西洋の服をまとった普段のギルドナイトと違い
乗り込んできたのは黒い西洋の服をまとった連中だった


「いい加減税を払ってくれないとこちらも困るんですよねぇ
でないとコチラも最終的には武力行使をせざるをえないのですよ」


娘は泣き妻は怯えている


「たのむ!あと少しだけ待ってくれ!!
必ず返すから!たのむ!今日のところは・・・」


「私達も鬼ではありません、いいでしょう
ただし、その間の繋ぎとして何かいただきましょうか」


「そ、そんな!家にはそんなものはどこにも・・・」


しかしその黒服をまとった連中は
ズカズカと土足で家へ入り込み部屋を荒らし始める


「や、やめろー!」

少女の父は止めにはいるが邪魔だと一瞥されて
弾き飛ばされる

そのとき


カラン


愛する娘へのプレゼントがポケットから落ちた


「おや?これはこれは、美しい!なかなか良い物を
お持ちではないですか、そうですねぇ
今回はコレで免除という事にしましょう」


「や、やめろ!それは娘への大切な・・・」


しかし聞く耳を持たず持って行ってしまう



クロノが言うにはその夜
愛するべき娘へのプレゼントを取り返しに
少女の父はピッケルを片手にギルドへ乗り込んだという


しかし次の日の朝、帰ってきたのは
玄関の前にポツンと置いてあった少女の父の血で染まった
赤い・・・そう紅いピッケルだけだった・・・


少女の母は娘に言った

「パパはね、お仕事で遠くへ行っちゃったの、だからごめんね
お誕生日一緒にはお祝いできないって・・・」


「パパ、いつ帰ってくるの?」


「分からない・・・本当に遠くへ行っちゃったから
ごめんね・・・ごめんね・・・」


少女を強く抱きかかえ少女の母は泣きながら
泣きながら謝っていた


少女とその母はブレイブ地方を出た
良い思いでろ悲しい思い出が交差するこの地方を



そして行くあてもなく食料も水もなく
路頭に迷っていた二人に手を差し伸べたのが
クロノだったそうだ


そして今二人はこの街で暮らしている
裕福ではないけれど、幸せに・・・幸せに・・・



クロノは当麻に言った


「俺たちは飛燕という名で世界中に知られている
そう、大盗賊団としてな・・・」

そして続けていった


「俺たちはさっきみたいに税金の繋ぎだとか
ギルドが強法で奪っていった物を盗み
本来の持ち主へ返して回っている、
普段はハンターとして金を稼いでるけどな」


そう、今日当麻が盗んできた天海の雫は
やさしい父が愛娘へ送ろうとしたプレゼント


ちょっと遅れた父から娘へのプレゼント


その宝石は少女の手の中で夕陽に照らされながら
幸せそうに輝いていた



© Rakuten Group, Inc.
X